自分の道徳に問いかける

『氷点』(上下、三浦綾子、角川文庫)

長さ:長め
難易度:ふつう
対象:どっぷり考えたい人へ

「いや、そんなことしちゃだめでしょ」とか「なんでそんなことしていいと思ってるの?」と感じたことはあるだろうか。

私はある。「え、そういうこと言っちゃうんだ」と友達に思ったことも何度もある。

だけどなぜそんなことを思うかと言えば、人によって、「道徳」や「善悪」の判断が、ちがうからだ。

「道徳」というと、すごく大きな話に聞こえるけれど、実際のところ、「これはしてもいいことなんだろうか?」と自分に問える力だと思う。

『氷点』という小説は、高校生くらいで読むと、ちゃんと自分に対して「自分の善悪の判断基準ってどこだろう?」と問える力をくれる物語だ。

主人公は、いい子で、誰から見ても優等生で、非の打ちどころのない女の子に見える。だけど彼女の周りには、さまざまな思惑が交差する。そして主人公は、最後、ある決断をする。

私は『氷点』をはじめて読んだとき、「え、誰から見てもいい子、ってのは存在しないのか」「誰からもゆるされる子ってのは、この世にいないのか」と驚いたことがある。

何かの基準や、だれかがほめてくれる場所にいれば、ゆるされるわけではない

誰もゆるしてくれないから、自分でまず祈るしかないときもある。

びっくりするくらい残酷な事実だけど、『氷点』という小説は、そんなことを、「キリスト教」という思想を根底に流しながら、私たちに問うてくる。

友達に対して、「それってゆるされることなの?」ともやもやしたり、あるいは、自分に対して、「こんなにいい子にしているけれど(あるいはいい子にしてないけれど)、これって、いつか褒められたり罰を受けたりするもんなのかな」と不安になったりしたことのある方は、『氷点』を一度読んでみてほしい。

道徳、というものが、学校の授業じゃなくて、生きるうえで抱くものとして、自分に迫ってくるだろうから。

(管理者追記)

書評家・文筆家の三宅香帆さんからご寄稿いただきました。
『氷点』およびその続編『続 氷点』にはKindle版が存在します。

リンク先は氷点(上)へのものです。

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